大学院時代に私が修士論文のテーマにしたのは、「ヴァイオリン演奏におけるボーイングと音色の関係」です。
当時、私は、聴衆の心に響き、感動や共感を与えるような演奏をするために、様々な角度から研究をしていましたが、説得力のある論文にするためには「狭く深く」書く必要があるため、右手の動きに視点を置き、弓の置き方(音の出し始め=子音)と、弓を置いた後にそのひと弓の中でどう動かすか(母音)を中心に執筆しました。この組み合わせ方は無限であり、ヴァイオリンの音色に大きな影響を与えていると考えられます。
以下、その序論より、一部を抜粋します。
ヴァイオリンは構造上音量の差が出しにくい楽器である。よって、表情豊かでメリハリのある演奏をするには、「音色」が重要になる。勿論、各演奏者・各楽器によって音色は異なるが、重要なのは、ひとつの楽曲やフレーズの中で様々に音色を変化させることである。では、どのようにしてそれを可能にするかというと、大別して左手の問題と右手(ボーイング)の問題がある。また、腕・手・指に分けても考え得るし、下半身の在り方も重要である。細かく言えば、末端の筋肉や各関節も問題になってくる。さらに、それらには相互性があるので、最終的には身体全体の動きを考えることが必要である。
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ポイントになるのは「弓の速度」・「弓が弦に加える圧力」・「弓と弦の接触点」の3つであり、これらは互いに影響しあう。(例えば、弓の速度を遅くするならば、圧力を減じ、接触点は駒の近くに寄せるべきである。)さらに、左手の位置(ポジション=弦の長さ)や弦の数(単音か重音か)など、あらゆる要素が関連しあって3つのポイントを左右する。それら全てを考慮した上で、一つの音を作り出すのである。
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